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その他 - 2025.08.15

白鳥寮寮歌の作者を探して

磯村尚史|機械工学科 11期

霞たなびく 水の面に  映すしらとり 影ひとつ

その純白の 姿こそ   我らが精の 清さかな

眠れぬ夜は 岸辺にて  高き理想を 胸に抱き

星を仰ぎて 語り合う  良き友として しらとりと

紺碧の空 松風に    雄々しき翼 しらとりの

騒ぐ生命の 息吹にも  健児の胸は 高鳴れり

冷たき空に 昇る陽を  しらとりともに 眺めては

新しき世の あけぼのに 尽くす誓いも 新たなり 尽くす誓いも 新たなり

「今歌ったのが寮歌だ。来週の月曜日までに覚えておけ」と言われたのは、昭和47年に入寮して間もない頃、早朝訓練の際であった。比較的覚えやすいメロディーであり、ある程度の情景がイメージしやすかったため、意外と早く覚えることができた。それ以降、高学年になってからもクラスコンパの際など、最後に皆で歌うことが多かった。あの時からすでに50年以上が経過したが、歌詞の半分程度は今でも記憶に残っている。現在の記憶力は恥ずかしいほど低下しているが、当時の記憶は不思議と多く残っている。

しかし、この寮歌がいつ頃、誰によって作られたのかという情報には接することがなく、長い間、知らずに過ごしてきた。

私は同窓会の役員を務める中で、60周年記念誌作成に関わった際、「学校だより」「学校便覧」「宇部高専10・20・30・40周年記念誌」などを図書館で調査する機会を得たが、特に宇部高専草創期の情報が次第に失われつつあることを痛感した。その折、「宇部高専10周年記念誌」に校歌に関する有園先生の寄稿文を見つけた(注1)。その主旨は、昭和41年に校歌募集運動があり、英語科の上田敏雄先生の詩をもとに選考委員会の意見を反映させて作られたというものであった。しかし、寮歌に関する記述は見当たらなかった。

その後、偶然にも宇部高専が制作した50周年記念動画を視聴した際に、中山先生が「寮歌は寮生の松永君が作詞した」と紹介していた(注2)。残念ながら、この情報を得た時点では中山先生はすでに訪問者に会う体力を失っておられ、直接お話を伺うことはできなかった。

更にその後、中山先生が逝去され、宇部ココランドにて開催された「しのぶ会」の席上で、しらとり会前会長の吉村康範さんより、「この先輩が寮歌の作者についてご存じです」と紹介されたのが、機械工学科1期生で、現在カナダ・バンクーバー在住の猪腰洋三さんであった。

後日、猪腰さんとのメールのやりとりにより、作詞者は電気工学科1期生の松永孝さんであることが判明した。猪腰さんによれば、「作詞は間違いなく松永氏本人だが、曲はどこかの学校の寮歌のメロディーを借用したらしい」とのことであった。松永さんご本人にお会いできれば、寮歌作成のエピソードも聞けるかもしれないと期待したが、猪腰さんからは「彼は長年消息不明であり、もし何らかの情報があれば知らせてほしい」との連絡を受けた。

昔の住所や勤務先がわかれば手がかりになると思い、まず私が所持する最も古い会員名簿(昭和54年発行)を確認したが、すでにこの時点で住所等の情報は掲載されていなかった。インターネットで様々に検索・調査する中で、「松永孝工務店」という名称の事業所が宇部市善和にあることを突き止めた。さらに電話番号も判明し、期待を込めて電話をかけたが、「現在使用されていない電話番号」とのアナウンスが流れ、それ以上の調査は進まなかった。

最後に、何か手がかりはないかと、改めて「宇部高専10周年記念誌」を調査したところ、有園先生の校歌に関する寄稿文の中に、「校歌制定の選考委員会の学生側委員に5E松永孝、他2名」との記述を見つけた。おそらく松永さんは寮歌作成の才能を評価されてこの委員に選ばれたか、あるいは校歌制定に深く関わる中で得た経験をもとに寮歌を作詞したのではないかと推測される。

結局、松永さんにお会いして寮歌に関する詳しい話を伺うことは叶わなかったが、寮歌完成に至るまでの過程の一端を、当時の状況とともに垣間見ることができたように思う。

現在の寮生はテレビや冷蔵庫の持ち込みが可能で、インターネットや携帯電話も自由に利用できる環境にあり、そのような中で寮歌の存在すら知らない寮生も少なくないようである。全寮制で持ち込みはラジオのみという時代に育った我々の世代にこそ、寮歌は深く根付いていたのかもしれない。しかし、寮歌が次第に忘れ去られていくことは非常に寂しく、せめて寮歌に関する情報だけでも後世に残しておきたいと強く感じる。

学校草創期の情報は今まさに消えつつある。そのような情報をつなぎ合わせることができる者が、責任をもって整理し、記録として残していくべきであると考えている。

最後に、本稿に接した方の中で、新たな情報をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ宇部しらとり会までご一報いただきたい。

十一期 機械工学科卒業 磯村尚史 (宇部しらとり会 会長)

  • 学校ホームページの「校歌」欄に「校歌の誕生にまつわるエピソード」として、
    有園先生の記事の抜粋が掲載されている。全文は『宇部高専10周年記念誌』を参照のこと。
  • 学校ホームページの「動画で見る宇部高専」にて、創立50周年記念動画を視聴可能。

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